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   多季はどんな気持ちで、自分にキスしたのだろう。単なる別れ際の挨拶か、あるいはからかい半分か。  でも、もしかしたら、多季は自分と同じような気持ちでいてくれるのだろうか。  そこまで考えて、菫は目を覆ったまま、その答えをかき消すように頭をぶんぶんと振った。  思い上がるな。多季のように容姿も性格も、すべてが素敵で魅力的な男が、こんな平凡な人間に恋するはずなどないではないか。  出会ってから今夜まで、多季が菫に向けた笑顔が、言葉が、繰り返し蘇る。自分が気に入られていることは、多季の話しぶりや様子から、十分に伝わっていた。しかしそれはあくまでも親愛であって、菫が多季に寄せる想いとは別物だ。  多季は優しい。優しいから、勘違いしそうになってしまう。それだけのことだと、繰り返し自分に言い聞かせる。 「……多季」  名前を呼んでみる。たったそれだけのことで、胸がキリキリと締め付けられるように痛んだ。 「……多季」  一体これからどうすればいいのだろう。自分の気持ちを知った以上、今まで通り多季と接することなどできそうになかった。せっかく始めたヨガなのに、もうやめなければいけないのか。ヨガを習い始めた記念に、と言ってDVDをくれた多季や、紹介してくれた中道さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。  そんなことを考えている間にも、さっきのキスの、やわらかなくちびるの感触や、多季の肌の匂いや、かすかに震える長い睫毛が、絶え間なくフラッシュバックしてくる。  一日の疲れがどっと押し寄せてきた。身体は鉛のように重くだるいのに、頭だけはぎらぎらと冴えきっていて、結局ほんの束の間も眠れぬまま、いつの間にかカーテンの隙間から覗く空が白んできた。
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