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 その日は日付が変わる少し前に帰宅した。ざっとシャワーを浴び、パイプベッドに崩れるように倒れ込む。 「はあー……」  今日も一日いろいろあったが、一番の疲労の原因は、あのチケットだ。 「……ヨガかあ」  菫の乏しい知識のなかでは、人間離れしたポーズを取る髭もじゃインド人の姿しか想像が出来ない。いずれにせよ、背ばかりはひょろりと高いが身体が硬く、スポーツとも無縁で生きてきた菫には、まるで向いていないと思う。 「参ったよなあ……」  押しの強い中道さんのことだ。これから顔を合わせるごとに「行った?」とプレッシャーをかけてくるに違いない。 「……中道さんでもストレス溜まることあるんだ」  そうつぶやいて、ちょっと吹き出してしまった。そういえば中道さんの二人の息子は大学生と高校生だと聞いた事がある。そうだとすれば、中道さんの年齢は若くても四十代前半、あるいはもっと上なのだろうが、見た目はどう見ても三十代半ばくらいにしか見えない。きっと姿勢が良く、身体が引き締まっているから若々しく見えるのだろう。 「……今週末あたり、行こうかな。行かなきゃまたうるさいだろうな。……あー、ぜんっぜん気が進まないけど」  相づちを打ってくれる人もいないひとりぼっちの部屋でぶつぶつとつぶやいているうちに、いつしか眠りの世界へと吸い込まれていった。
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