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 レッスン後、多季の周りには相変わらず女性たちが群がっていて、菫が近寄れる隙はない。かと言ってこのまま何も話さずに帰ることはできないので、とりあえずマットを片付けようと背を向けた瞬間、「吉志さん」とよく通る声で多季に名前を呼ばれた。思わず身体がびくりと跳ね、恐る恐る振り返る。 「お話ししたいことがあるので、更衣室でお待ちいただけますか?」  にっこりと笑った多季の言葉に、心臓が最大限に跳ね上がる。「あ、はい」とだけ返して、菫は足早に更衣室へと向かった。  着替え終わり十分ほど経過したところで、トントンとドアのノック音が響いた。ドアを開けた多季が颯爽と入ってくる。 「ごめんね、待たせて」  まるで何事もなかったかのように、微笑みながら菫を見つめてくる。その視線から逃げるように視線を逸らし、俯いた。 「……こっちこそ、なんか、レッスン中に全然集中力なくてすみません」 「いいよ、だって全部僕のせいだから」 「……」 「菫は分かりやすくて本当に面白いね」  からかうようにそんなことを言う。多季の余裕が恨めしくて、口を尖らせたまま顔を上げ、多季を睨み返した。その視線を真正面で受けた多季ふっと笑ってから、目を伏せた。 「……もう来てくれないかと思ってた」  しばらくの沈黙の後、それまでとは打って変わって、ひどく弱々しい声で、多季がそうつぶやいた。いまにも泣き出しそうな、淋しげな笑顔で菫を見つめてくる。 「あれから全然連絡なくて、……正直、かなり落ち込んでたんだ」 「それは多季さんだって、」 「だって、……君が怒ってると思ったから」 「……」
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