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「突然あんなことして、きっと気味悪がられてるだろうなって、そう思ったから」
「約束したじゃん。これからいっぱいいろんな所に連れてってくれるんだろ? 長崎にも一緒に行くんだろ?」
「……」
多季がびっくりしたように大きく目を瞠った。
「そういうこと、全然叶えないまま、せっかく仲良くなったのにもう会えないなんて、たったあれだけのことで会えなくなるなんて、俺は絶対に嫌だから」
半ばやけくそで言い放つ。本当はすごく怖くて、いまこの瞬間にも全速力で走って逃げ出したい。それでも多季のことが好きだから、菫は自分の正直な気持ちを懸命に伝える。
顔を真っ赤にしてそう告げ終わった瞬間、多季のしなやかな両腕に包まれた。
「……君が好きだ」
「……」
折れそうなくらい、強い力で抱きしめられる。
「菫のことが、好きなんだ。キスしたのは、冗談でもなんでもなくて、本当に君が好きだから」
「……なんで? なんで俺?」
「だって、……君は僕の踊りが素敵だと、……好きだと言ってくれた」
「……」
「上手いだとか下手だとか、いいとかダメとかじゃなくて、『好き』って言ってくれたのは、他の誰でもない、菫だけだから」
とても静かな、澄み透った声で、多季はそう言った。そして、菫の肩に頭を埋めたまま、まるで母親に甘えすがる子どもみたいに菫をぎゅっと抱きしめてくる。
多季は泣いているのかも知れない。そんな気がしたから、菫は多季の身体を腕で包み込み、もう片方の手で多季の頭をあやすようにそっと撫で続けた。
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