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 五分ほど歩いたところで、店に到着した。軒先で傘を畳むと、鞄から取り出したタオルで多季が肩の辺りを拭いてくれる。多季の手からタオルを奪い、今度は菫が多季の肩先を拭くと、多季は俯いたまま照れくさそうに身を竦めていた。  人気がある店で一時間待ちもざらだと多季と言っていたが、昼の混雑時を避けて訪れたからか、あるいはこの大雨のせいか、待つことなく店に入ることができた。十人も入れば満席になる、小さな店だ。狭いし飾り気はないけれど、漆喰の壁とウォルナット色のアンティークな家具が落ち着いた雰囲気を醸し出している。  菫は鯖の竜田揚げ定食、多季は豆腐クリームコロッケ定食をオーダーして、ふたりでおかずを分け合いながら食べる。オーガニックカフェと銘打っているだけあって、どのおかずも瑞々しい野菜がたっぷりと使われていて、なおかつボリュームもあるのが嬉しい。久しぶりの玄米ごはんの香ばしさに、どんどん食が進んだ。  ヨガを始め、多季と身体に優しく美味しいものを食べ歩くようになってから、菫はそれまで無頓着だった食事にも気を使うようになった。朝食はご飯に納豆と、野菜たっぷりの味噌汁を作り、コンビニ弁当はやめて、店で手作りした和惣菜の日替わり弁当を食べる。小腹が減ったときは甘い菓子パンやスナック菓子の代わりにナッツや果物をつまみ、夜もなるべく自炊した。それだけのことで、身体のだるさや疲れが嘘みたいに取れ、身も心もずいぶん軽くなった気がする。
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