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第一印象は「顔ちっちゃ!」だった。無造作な黒髪に覆われた、信じられないくらい小さな顔と、そこから続く細く長い頚。引き締まった細い身体は意外に肩幅が広く、人形じみたすらりと長い手脚が伸びている。ピッタリと身体に沿った服装だから、嫌でもその美しい肢体が目に入ってくる。
「こんにちは」
にっこりと微笑んだ彼から挨拶をされて、菫もぺこりと頭を下げた。
「中道さんのご紹介で体験レッスンにお越し下さったのですが、今夜のベーシッククラス、もう満員なんですよね」
なんとかしてくれと訴えるような眼差しを向ける受付嬢に、男が応える。
「フロアは全然余裕あるし、せっかくお越し頂いたんだから」
そう言った後、男は菫を見つめて申し訳なさそうに眉をひそめた。
「大変失礼しました。ぜひレッスンを受けてくださいね」
低いけれど、低すぎない。穏やかだがよく通る声だ。
「講師の桜庭です。よろしく」
「あ、よろしくお願いします」
「それでは吉志様、恐れ入りますがこちらの受付用紙に必要事項をご記入ください。今回は体験レッスンですが、次回からいつでもご利用いただけるメンバーズカードを発行させて頂きますね」
受付嬢に促されて、菫はボールペンを手に取った。氏名や住所、ヨガの経験の有無などを記入していく。菫よりも十センチほど背丈の低い男は、その間も黙って菫の隣に佇んでいる。
「菫って、素敵な名前ですね」
用紙を覗き込んだ男が感心したようにそんなことを言い出したから、菫の身体が一瞬でこわばった。
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