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タンタンタン、と音がする。まだ覚醒しない頭で、ぼんやりとした耳で、その音の在処を探る。
タンタンタン。また音が聞こえる。速くてリズミカルな音。なんの音だろう。
どうして自分は、こんなところにいるんだろう。
意識が次第にはっきりしてくる。身体を探ると、ブランケットが掛けてあった。そう、ここはヨガのスタジオだ。みんなはどこへ行ったのだろうか。桜庭は……。
思い出した途端、一気に血の気が引いた。やべっ、と思い、両目をカッと見開き身体を起こそうとした瞬間、視界に飛び込んできたその映像に、菫は思わず息を飲んだ。
照明を最小限まで落とした部屋のなか、飛び跳ねながらくるくると回転する身体が、両手を高く挙げ、宙に舞った。一瞬空中で止まったようにも見える、高い高いジャンプ。着地した身体は、ふたたび回転を始める。片脚のつま先立ちで、もう片方の脚で何度か空を蹴るようにして弾みをつけると、まるで駒のように高速で回転しつづける。回転が止まるとリズミカルに飛び跳ねながら走り、また宙を舞う。
桜庭だった。その姿は踊りに詳しくない菫でもはっきりと見て分かるほどに優雅で、それでいて情熱的だった。
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