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 休み明けの出勤日、昼休みに休憩室に入ると、先に休憩に入った数人のパート従業員の女性たちが弁当を食べながらお喋りに花を咲かせていた。「お疲れさまです」と挨拶を投げると、菫の姿を認めた中道さんがすくっと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら菫の方に近寄って来る。 「聞いたわよー。レッスン中に爆睡したって」  その迅速すぎる情報収集能力に驚きながら、菫は「すみません」と意味もなく謝った。 「早速『ジャージくん』ってあだ名付けられたみたいよ。めずらしく若い男の子が来たから、みんな喜んでるのよ」 「……はあ、そうですか」  これだから女性は怖いよと思いつつ、しかし眠ってしまったのは完全に菫の落ち度だから、変なあだ名の件は致し方ない。 「それで、どうだった?」 「はい、あの、……入会することに決めました」 「え、ホントに? 意外!」  一オクターブほど上ずった声で叫んだ後、「吉志くんが入会してくれたら、紹介特典で私もワークショップの無料チケット貰えるのよ。助かるわー」と声をひそめて囁かれた。 「桜庭先生のレッスン、良かったでしょ?」 「あ、はい」 「彼は講師陣のなかでも抜群に教え方が上手いのよ。ま、イケメンだからって理由で受講する子もたくさんいるけどね」 「……なんとなく分かります」 「忙しいでしょうけど、始めると決めたんだから、これからも頑張って続けてね」 「頑張ります。……こちらこそありがとうございました」  そう言ってぺこりと頭を下げた菫を、中道さんは子どもに向けるようなあたたかな眼差しで見つめた後、ふたたび女性たちとの会話に溶けこんでいった。
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