168人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
「……」
入学式だと言うのに、校舎の隣にはパトカー。
この大桃中学校…
今流行りの「横浜銀蝿」って、ツッパリグループを地で行く生徒の集まり。
…不良の巣窟と言われている。
そんな学校に通うのは怖いし不安だけど…この町にいる限り、他の中学に行く選択肢はない。
よっぽどのお金持ちで、超エリートと言われるほどの頭脳でもない限りは。
この無駄に広い大桃町には、四つの小学校がある。
そこから同級生が一気にここに集まった…というわけだけど。
その内訳はと言うと…
桃山小学校、55人。
桃川小学校、45人。
桃谷小学校、22人。
桃丘小学校、8人。
数年前、空き地に住宅が立ち並び、桃山と桃川には驚くほど人が増えた。
だけど桃谷と桃丘は減る一方。
そんなわけで、私と奈緒が通ってた桃丘小学校と、光希が通ってた桃谷小学校は、何かと合同でイベントが開催された。
周りからは、もう統合すればいいのに。なんて言われてるけど…
大人の事情なのか、現状維持が続いている。
だけど地域同士は仲良し。
幼い頃から小さなコミュニティでしか育ってない私も、学校行事が合同開催されるようになって知り合いが増えた事で、人見知りも少しは…緩和…され…
「……」
入学式の最中。
近くにいる奈緒を横目で見る。
小さな頃からアイドル的存在な、奈緒。
小麦色の健康的な肌に、クルクルな天然パーマの髪の毛に、大きな目。
見た目も明るいけど、性格もとびきり明るい。
桃谷小学校の人達とも、一番に打ち解けたのは奈緒だった。
私はと言うと…
先生よりも高い身長。
人見知りで口下手。
おまけに…病弱。
ランドセルは似合うはずもなく、手提げバッグを持った猫背で暗い子。
きっとそれが私。
そんな私と一緒にいてくれる奈緒。
私にとって、奈緒は心強い親友。
だけどきっと…こんな私でも。
中学生になったら、変われるはず。
そんな希望を胸に、後方からヤジしか聞こえない式典の最中。
私は、壇上の校長先生を見上げた。
最初のコメントを投稿しよう!