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1.
天上界で神さまが、集まった者を前に話をしておられた。
「下界を見てごらん、男が北風に吹かれて歩いているのが見えるだろう。
ガス会社の夜警だ。あの男はもうすぐ倒れる。息が絶えるまぎわに、男が思い出す者がこの場にいたら、あの男を迎いに行ってほしいのだよ」
集まったものたちは、口々に、
「あの男は老いた妻を亡くして、とても気落ちしました。夕方起きて仕事するだけです」
「心を閉ざした男に思い出になる記憶を残したおぼえはありません」
「思い出すのは、死んだ妻や家を出た子たちのことでしょう」
自分は関係ないと言いながら去りました。
その後、不自由な体を引きずって、遅れてやってきた者が、
「もし、男が思い出したら、わたしが行きます」と言いました。
神さまは、
「男は脳梗塞で倒れるのだ──あの病気は前兆に、思いもかけぬ記憶がよみがえることが
ある。強く残った印象や,楽しかったものばかりではない。何げないシーンや、一瞬に刻まれた思い出も あるのだよ」と言われた。
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