ワンクール

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 潮風かつ夜風。病弱なお嬢様が長時間当たって良いものではないだろう。わたしは医者ではないし、妹の体が具体的にどう悪いのかも知らないので、本人が良いという以上、踏み込んで過保護にする義理は感じない。  わたしは砂浜をざくざくと歩いた。ざばんざばんと波が白い色を浮き上がらせる。ごつごつと石がサンダルの裏に当たる。昼間はこれが灼熱の熱さになる。  (よく、こんな海辺まで嫁いでくる気になったなあ)  妹を連れて、うちの父と再婚した今の母親の事を思うと、溜息が出そうになる。魚を加工する小さい工場を経営しているから、社長の奥さんになるなら必然的に自分も魚にまみれて仕事をしなくてはならなくなる。  都会から来たお母さんは、髪の毛を小奇麗にして、いつも化粧をして、ブランド物のバッグを持ちたがるようなひとだ。美人である。妹は母親に似たんだろう。  マダム然としたお母さんは、それでもよくまあやっている。最初、工場に長年勤めているおばちゃんたちに打ち解けられるか危ぶまれたけれど、なんとか馴染んだらしい。流石に小奇麗な服装をすることはなくなった。明日も朝早くから市に行かねばならないらしいので、もうそろそろ寝るのだと思う。  (それに引き換え、こいつはどうだ)     
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