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妹はわたしとは違う時間を生きている。生命の最後の一粒を絞り出すその瞬間までも、きっと虹のように光を放っているのに違いない。決して可愛いとは思えない。もはや勝手にしろとしか思えない。けれど、妹の笑顔よりも綺麗なものは、そうそうない。そう思う。
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ざくざく砂を踏んで歩く。
ど田舎の海辺、観光客が来るには来るけれど、広い海水浴場があるわけでもなく、ここは所詮通り道のような場所だった。
夏休みに子供がおばあちゃんちに帰ってきて二、三日過ごす程度の町だ。真夏でも真冬でも、この砂浜は静かだ。今、波の上にはちかちか光るクラゲが浮かんでいる。
大きな石がある。
少し高い位置になっていて、潮がちょっと満ちぎみになってきても、ここまでは波が来ない。もちろん本格的に満ちて来たら砂浜には降りられないけれど、今はまだ大丈夫。
この石は、小さい時からわたしの定位置だった。座ろうとした時、すごい勢いで横から蹴り飛ばされて、砂の上に転がった。見上げたら、妹が小憎らしい顔をして、自分がその石に腰を下ろしているところだった。
「酷いじゃない」
「病人に席を譲るもんだろばーか」
石に腰掛け、白いワンピースからむきだしの細い足を蹴り上げ、妹はけらけらと笑った。
夜風が髪の毛を弄び、妹はまるで妖精のように軽やかだった。さっきわたしを蹴り飛ばしたという事実以外は、天使のようにあどけなく清純な様なのだった。
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