喧嘩と歩み寄る気持ち

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髪の長い彼は真嶋勇輔(まじまゆうすけ)君 風貌とは違ったワンコ系の彼はとにかくよく気がつく ドリンクの注文はスマートに そして、あ!と思い出したように指を鳴らすと サッと走って食べ物を運んでくる 『愛華さんもしっかり食べないと出るとこ出ませんよ』 綺麗に盛り付けられたお皿には ローストビーフが三枚も乗っていた 『・・・え』 どう考えても“出るとこ”は胸のことで 慌ててドレスの胸元を隠すようにショールを集めた 『やだ』 慌てる様子の私を見ながらケラケラと笑うから 頬を膨らませる暇もなく、同じように笑ってしまった 冗談を交えながら 自分のことを話す勇輔君に聞き入る 実は散髪に行くのが面倒で髪を伸ばしていること 更には身体と同じ石鹸で髪を洗っているのに 艶があって直毛なのことに驚いたり 年下の男の人と話す珍しさに 引き込まれていた そんな楽しい会話に水を差したのは 『楽しそうだな』 不機嫌な顔をした彼だった 『・・・っ』 悪いことをしていた訳でもないのに 『・・・私が壁際で、あの』 唇を割って出てきたのは言い訳みたいなもので そんな私を完璧に無視した彼は 『お前、ワザとだろ』 勇輔君へ矛先を向けていた 『先輩なんてこと言うんすか? あ、もしかしてこちらは先輩の彼女すか? すんませ~ん。余りにも退屈そうにしてたから。お相手してただけっす』 そんな彼に緩い言葉で返す勇輔君は 頭の後ろを掻きながら 一歩、一歩と後退り 『では、自分はこれでっ』 敬礼すると人集りの中に消えてしまった 『あの』 どう声を掛けて良いものか 悩んだ挙げ句がこれ もちろん『なに』と、さっきと同じ不機嫌な声が返ってきたと同時に 『あのさ、君は今日僕と一緒に来たんだから勝手に居なくなるのはおかしいだろ?』 責めるような言葉が降ってきた 「・・・」は? 私の所為なの? 苛立つ気持ちは 止められそうもなかった
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