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私の「げ」に、若水元汰が「ん?」と振り向いた。
「え」
明らかにぎょぎょっとした顔で支払いを済ませ、御守りの入った袋を指先で持つ。
「びっくりした……。萌子だ。何でこんな所にいんだよ」
「初詣だよ。初詣に決まってんじゃん。それに私、“萌子”じゃなくて“萌”だよ。戸口萌。“子”はいらないから」
思わず自分を指差して自己紹介しちゃったじゃないか。今更すぎる。
若水元汰は私を呼ぶ時──私を呼ぶこと自体ごく稀なのだが──、何故か“萌子”と呼ぶ。何故“子”を付けるのか。
「同じ学校の奴に会うと思わなかった……。しかも御守り買ってるとこ見られた。超恥ずかしい」
萌子の件はスルーか。
しかもどこか不貞腐れていて、逆ギレ気味だ。
私は若水元汰を、あまり好意的に見たことはなかった。
ガサツだし、バカだし、掃除も委員会もサボるし、とにかくいい加減な奴という印象しかない。
「私こそ、学校の……ましてや同じクラスの人に出くわすとは思わなかったよ。何で来てんの」
「いや、そっちこそ何で。ゆず子とか睦子とかと本山の方行くとか騒いでなかったっけ」
あ、出た、また無駄に名前に“子”付ける呼び方。
ゆずぴーとむっちゃんも“子”の付く名前ではない。正確には柚希と睦美だ。
こいつは女子なら誰でも“子”を付けて呼ぶ癖があるらしい。
「だってさ、ゆずぴーもむっちゃんも朝の六時待ち合わせしよーとか言って張り切っちゃってんだもん。早すぎるよ。それに本山の方はめっちゃ混むでしょ」
「そんな理由か」
若水元汰は笑った。「まぁ、オレもそんなとこだけど」と付け足して。
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