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「なぁ、一人で来てんの?」
「うん」
「家族とは?」
「うち忙しいから無理。コンビニやってるから、盆も正月もないんだよ」
「へー」
「若水こそ一人じゃん」
「オレは……。別に、一人で来たかっただけだし。ってゆーか、せっかくオレだけの場所感のある場所だと思ったのによ。何でお前がいんだよ」
一連の会話のキャッチボールの後、若水は買った御守りをコートのポケットにしまいながら、ぶつくさと独り言ちるように言う。
「おやまぁ」
そんな若水に、私はわざとらしく驚いてみせた。
「何その邪魔者みたいな言い草。それはこっちの台詞だよ、私だってここお気に入りの場所だったのにぃ」
「いや、オレの方がお気に入りだね。オレはここの石段を自主トレで使いまくってるから、オレの方が縁もゆかりもある」
「何だその暴論。神社は皆の場所なのに取り合ってどうするよ。野球の御守り買おうとして売り場のおばちゃん困らせてたくせに」
「あ、頼む、それ誰にも言わないで」
「じゃあ、ここ独り占めするの禁止ね」
「おう。お前は怒ると案外怖いっぽいしな」
「そんなこともないが、ではそういうことにしておけ」
若水を軽く怯ませた所で、私はてくてくと幣殿に向かった。
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