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賽銭箱に百円玉を投げ入れ、柏手を打つ。
んーと……。
やば、願い事考えてなかった。
家内安全、学業成就……。
あと平穏無事な一年でありますようにっと……。
お参りが終わって振り向くと、参道脇の植え込みの縁に座る若水が見えた。
どこか遠くをぼんやり見ていたかと思うと、体を右に少し傾けて、何かに目を凝らしているようだった。
「何してんの?新しいヨガ?」
「んー……違う……」
近づいて尋ねても、若水は身を傾ける姿勢をやめない。
「御来光……には遅すぎるけどさ、こっからどうにかして見えないのかなぁと思って」
「…………」
そう言われて、私も東の方角に体を向けてみる。
林立するビル群。
都市開発やら新興住宅地開発とやらで、マンションやビルが増えたこの町。
昔だったら、ここから御来光を待ちわびていた人もいたのかもしれない。
ビルとビルの、ちょっとした隙間を縫って。
それを見るために、私も若水のように体を右側に傾けてみた。
確かにそこには、白日と言うに相応しい光。
左脇腹が伸びる。
首を右に傾げる。
まるで、何かを問い掛けてるみたいだ。
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