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「新大阪、新大阪・・・」
アナウンスと人波に流れるように
改札口を出た。
初めての大阪・・・
案内板を頼りに御堂筋線へ。
一駅ずつ天王寺に近くなる毎に
緊張で汗ばむ。
「天王寺、天王寺・・・」
またもアナウンスと人波に押されて
地上へ上がると
阪堺電車の矢印・・・従い、
真ん中に線路を挟んだ商店街を
歩いて行くと、仁子の言う通り
銀行が見えた。銀行を右に入って、
突き当たり。『中嶋正輔英数塾』
の看板の三階建てビル。
「う~ん・・・」
ここまで来ておいてあと数歩に躊躇。
線路沿いへ戻り、
コーヒーショップで腰を降ろした。
3年ほど付き合っている仁子が
よく話題にするあの塾。
登場人物の中嶋塾長に
思い当たる付しがあった。加えて
「直哉さん、タニヤンに似てる」
仁子が言うので確信した。
タニヤンはおそらく僕の父親の谷本暁。
仁子には言ってない。
父が国立大学教授と妻帯者であるという
社会的立場を棄て、東京を去ってから
20年近くになるだろうか、
僕は中学生、弟は小学生だった。
一つ“厄介な出来事“を除いては
よくある教え子との不倫、
おそらくその事件がなかったら
父は日本で植物学の第一人者に
なっていたはず・・・。
(恋なんかするもんじゃない)
そんな心境を親に教えこまれたものだから、適当な風俗遊びをしても、
28までマトモな男女交際など
したことはなかったし、
(結婚なんか不幸の元凶)
そう信じていた。でも・・・
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