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きらめくきらめく ①
晴れた日の空みてヨーコはいう。
「煙草吸いたい。こんな日は煙草吸いたいな」
やめて何年経つ。まだ吸いたいのか。
「何年経ったっても吸いたいよぉ。時々吸いたくて吸いたくて気がくるいそうになる」
ヨーコは笑いながら「でも我慢するんだな」と赤ん坊を抱きしめる。
赤ん坊は五体満足で生まれた。ヨーコは生まれる直前まで不安がっていたが、出てきた女の赤ん坊を見て泣きだした。よかった、と泣いた。普通の子だ。この子には当たり前の人生を送ってほしい。あたしのようにはならないで。
時代が違うんだ、なるわけがない、と、俺はそのときいったが俺だって泣いていた。ヨーコと子ども、愛おしくて愛おしくてどうにもならなかった。これからは俺が二人を守ってゆくのだ。目についた幸せなものは全て二人に差しだしたかった。
駅から遠い団地。
物凄い人の量。
青い空。
子どもたちの声が壁に反響して木霊する。
ベランダで。
ヨーコは空に向かって、ふうーっと息を吐く。疑似の煙草の煙は空に向かって伸びてゆく。それはそれは長く伸びてゆき天まで届く。きっと届く。
俺は幸福感に満ち溢れて死にたい。
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