笑わない目

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「ナナちゃん、こっちきて喋ろうよ」 結貴が手招きすると七実は口元だけで笑って、首を横に振った。 「いえ、ふたりを邪魔するようなことはしたくありませんので。これが終わったら、外出してきますよ」 七実はパイプを掲げながら言うと、もうそちらに用はないと言わんばかりに背を向け、窓の外を見つめる。 「ナナちゃん、俺も君と話がしたいな」 陽人が言うと七実はパイプをひっくり返し、まだ熱いはずの珈琲を一気に飲み干した。 「つまらないことはしないほうがいいですよ」 七実は冷たい目のままにっこり笑うと、部屋を出てしまった。足音が遠ざかると、陽人は思わず舌打ちした。 「なんだよあれ、せっかく話しかけてるのに」 「そういうの、読まれたんじゃないの? 」 「え? 」 予想もしていなかった言葉に、陽人は結貴をまじまじと見つめる。 「そういう、「何々してるのに」っていうのは大抵余計なお世話だろうからね。人によってはマウントに感じるしさ。あの子、人の感情に敏感っていうか……。よく人を見てるからさ、気をつけた方がいいよ」 「エスパーかなんかなわけ? 」 「まさか。人をよく見てるって言ったろ? 詳しいことは分からないけど、実の家族で相当苦労したっぽいし」 結貴はそう言いながら、新しい煙草に火をつける。 「苦労って? 」 「んー……、簡単に言うと毒家族。実の母親と兄に、苦労かけられっぱなし」 「ってことは、ナナちゃんが一番下か」 陽人は彼らの新しい家族構成を描きながら、話を進める。 「そうだね。喘息持ちだから堂々とストレス解消の喫煙も出来ないってさ。だから俺の部屋を喫煙所に提供してるってわけ」 「へぇ……」 喘息持ちが喫煙などしていいのか疑問ではあったが、自我がはっきりしている子供と同居しているにも関わらずに再婚するような親など、たかが知れてる気がした。
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