笑わない目

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陽人(ひろと)は地図アプリを見ながら、慣れない道を運転している。 「こんな事なら、ナビつけとくんだったか? 」 これからつける気もないくせに、そんな弱音を吐きながらため息をついた。 彼が向かっているのは、幼稚園時代から付き合いのある親友、結貴(ゆいき)の新居。彼には物心つく前から母親がいない。男手ひとつで育てられてきたのだが、父の再婚により、新しい家族ができた。 再婚相手の女性も子連れで、妹と弟ができたときいている。新居の紹介時にいたら、そちらも紹介すると言われている。 本音を言えば、陽人は新しい家族に会うのに抵抗があった。具体的な理由を聞かれると答えに困るが、なんとなく胸がざわついた。 地図アプリは300メートル先を右折したところに、目的地があると教えてくれた。指示に従って右折すると、大きな家の庭に入った。その家はレンガ造りで民家というには大きく、屋敷というには小さい、そんな家だ。 砂利が敷かれてるだけの飾り気のない広くシンプルな庭には、2台の車が止まっている。黒塗りの普通車には見覚えがある。結貴のものだ。もう1台はお世辞にもいい車とは言えない、ボロいシルバーの軽自動車。きっとこれは、新しい家族のものだろう。 給油口の下は黒ずんでいて、あちこちシミだらけの軽自動車は、陽人ならとっくに暇を出してるくらいひどいものだ。 「よくあんなのに乗れるな……」 新しい家族に会うのが、更に不安になってきた。それでも着いてしまったのだし、耳のいい結貴は、陽人が来たことに気づいているだろう。 陽人は陰鬱な気分を押し込みながら、助手席に置いてある菓子折りを手にして降りると、ひんやりとした空気に思わず身を震わせた。 「もう冬同然だな……」 玄関に立って真新しいインターホンを押した。 リンゴーンリンゴーンと、少しばかり古くさいベルが、家主に来訪者を知らせる。
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