一切れのケーキ

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 そんな僕も三年生になって部活を引退した。  ふと立ち寄ったスーパーの中のケーキ屋。  そこに彼女が居た。  地元を離れて、どこかの専門学校に通っていると風の噂で聞いた事がどうしてここに居るのだろう。  緑色のエプロンを着た可愛らしい姿は、当時の様に綺麗だった。少し伸びた茶色い髪の毛でも、可愛いなと、あの初恋を思い出す。  あの頃の何もできなかった僕を思い出す。  レジに並ぶ僕に彼女は問う。 「時間ありますか」  ドキッとした。  あの時の様に、頭をぺこと下げる。 「ちょっと待ってて」  そう言われケーキを買わずに、スーパーのベンチに僕は座る。  クリスマスと言う時期もあり、ケーキ屋はお客が次々に並ぶ。  僕の心は踊りっぱなしで、落ち着かない。何度もトイレに行き、髪を整えては、ベンチに戻りを繰り返していた。  僕のことを知っていてくれたのか、緊張で口が渇く。時々見える彼女の笑顔を見ながら、考えていた。  時間ありますか。  コレは、彼女も僕のことを思っていてくれたのだろうか。  それから三十分くらい待っただろうか。感覚では三時間にも思えたが、目の前に飾られた時計は確かだろう。 「お待たせ。久しぶりですね。頑張ってた?」  ジャージでもエプロンでも無い、白いコートを着た彼女は首を傾げながら微笑んだ。 「頑張ってます」 「そっかそっか、これ私からプレゼントだよ。じゃーね」  化粧をした彼女は大人に見えた。  人懐こそうに笑って店の名前が入った箱をくれた。 そして手を振って帰って行く。少しずつ遠くなる彼女は、角を曲がり見えなくなった。  箱の中にはケーキが入っていた。
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