あの日から

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「150円のお返しでございます。」 一瞬触れた大きな手はとても冷たかった。 「へっくしょ、あ、今日はこの間と逆だね。俺のが手ぇ冷たい。」 そう言ってくしゃっと笑いながらお釣りを受けとると、彼はまだ薄暗く冷たい朝の世界へとのまれていった。 あっという間にもう年の瀬だ。 あれは、25日の夜のことだった。 クリスマスケーキが売れ残り、店先での販売に手の先から体の芯まで冷えきっていたあの時だった。 「これ、残りのケーキ全部いいですか? 会社の近くのお店が全部売り切れでね。 あと、貼るカイロこれ10個入り下さい。」 「ありがとうございますっっ!」 震える手で、お金をもらう。 お釣りを受け取った彼の手がとてもあたたかかった。 まるで、サンタさんからの贈り物のような時間に心の奥底があつくなった。 彼はケーキを受けとり、カイロの袋を破くと、そのうちの一つを寄越しながら、 「はい、寒い中お疲れ様。 クリスマスプレゼント。」 そう言ってくしゃっと笑うと照れ臭そうに背中を向けて急ぎ足に去っていった。 彼の広くてまっすぐな背中からしばらく目が離せなかった。 ーバイトの早番を終え、外に出ようとしたとき、見覚えのある背中がいた。 私に気がつくと彼は、 「はいこれ、お疲れ様。」 この前彼に渡したのと同じ、貼るカイロだった。 「え、どうして?」 「いやあ、いつもさ朝ここ掃除してるでしょ? 君がさ、俺のバイクについてた葉っぱをとってくれてる姿見たときからずっと気になってた。 家近いの?よかったら送ってくよ。」 私は彼の背中から彼の温度を感じた。 それは手の温かさともカイロの温かさとも比べ物にならないくらい温かかった。
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