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#2 上司Y~最初で最後の告白~
告白するなら今しかない。
ドアが閉まった瞬間、そう思った。
膝の上に置いた自分の拳の中が汗で湿り始めてる。
都心の繁華街から課長とふたり、タクシーに乗り込んだ。12月のキラキラと輝く光の森のなかを滑るように走り出す。
「S君は二次会、行かなくて良かったの?」
課長は言いながら、そっと花束を僕との間に置いた。
花の香りが車内にふわりと香った。
「課長の送別会なのに主役なしで二次会でカラオケなんて意味ないですし、あんまり僕は騒ぐのも好きじゃないんで。」
つい真面目に答えてしまった。課長は間をおいて、声を出して軽く笑った。
「知ってる。まぁ僕は君のそういうところ、好きなんだけどね。」
整えられた顎髭に指先を這わせるいつもの仕草で、課長は静かな声でそう言った。窓の外のイルミネーションが眼鏡に映って光る。その流麗な横顔を眺めた。
8年。
入社して、この人に出会って、全ての感情を抱いた。憎しみ、憐れみ、親しみ、敬い、そして慕ってきた。
その人が会社から、そして僕のそばから去ってしまうのだ。
「君、M主任のことが苦手なんだろ?」
突然、図星のことを言われて、ハッとした。
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