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#3 最高の相棒T~おかえり。~
「もっぺん言ってみろや...ぶっ殺すぞてめえ...」
最初に出会ったときに聞いたヤツの声。
小さく響く声。今でも耳に残っていて思い出す度ぞくぞくする。
相手にだけ聞こえるほどの声の中にある、獣が闇から飛びかかって来ようと目を光らせているような怖さ。
何をしでかすかわからない、刃向かうと何をされるかわからない、一歩も動けなくさせてしまうそんな凄み。
1年生のクラスの前の廊下。俺はすぐ後ろのその声がした方を振り返った。
なにか因縁でもつけたんだろう。詰襟の下を鷲掴みにされて鼻先まで顔を近づけて凄まれた1年生の男は、明らかに瞳孔が開いていた。震える歯をぐっと噛むと強がるようになんとか舌打ちをしてやっと目を反らし、その手を振りほどき立ち去っていった。
それを見届けた後に俺に気づき、急に笑顔になり近づいて話しかけてきたその赤髪の男。
「あ!おまえ、空手で地区優勝したヤツやろ!知ってんで!」
あの殺気の後のびっくりするほどのなつっこさ。
「...いや、ケガで辞めたんだよ。てか、おめえ誰だよ!」
頭一個分俺より背が低いことにまた驚いた。名前を言ってよろしくな、と肩をパンと叩いてきた。その力は強かったが、体つきは俺よりもずっと華奢だった。でもコイツのオーラは俺よりずっと強くてデカい。武術を貫いてきた百戦錬磨の俺が感じるんだから間違いない。
コイツとなら、やれる。そう思った。
俺にしつこく絡んでくる隣のバカ私立高のヤンキー共も、ケンカを申し込んでくる一年坊の尖ったうるせえのも、3年の先輩のアタマはってんのも陥落させられるかもしれねぇと。
はっきり言って即効、惚れていた。
それがTと俺が相棒になった高2の春だ。
ケンカの耐えない田舎の悪名高いその高校で、ダブりで転入してきたTは、俺と俺のしたっぱを引き連れてあっという間に学内の輩を纏めて、結果、2年の冬にはアタマになった。
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