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カップルズ
Kは離婚届を夫に差し出した。
「わざわざ、持ってくることないじゃないか、そんなに急ぐか?」
羽田空港内のカフェ。最後の夫婦旅行から帰ってきた。
「キリがいいのが好きなのよ。知ってるでしょ?貴方の会社の近くじゃない。出しといてね。」
「今日からホントにもう君の会社の援助はしないが...」
少し言い淀む夫にKは明るく言った。
「そのために店舗減らしてネット業界に移行したんだから。最後のお願いも聞いたじゃない?」
「すまない、つきあいなんだよ。」
テーブルの上、2つのコーヒーが冷めていく。
40代にさしかかったKは、昔、10代半ばで一度顔の売れた女優だった。しかしすぐ不動産会社社員だった今の夫との交際中に妊娠、産むことを選んで追われるように業界を去った。長女、長男の2人の子育てが落ち着いた頃、出来るならもうひと旗あげたいと、ずっと慕っていたヘアメイクのNを引き入れて化粧品会社を立ち上げた。それをなんとか軌道に乗せてやって来れたのは、代表取締役となった夫の人脈と援助という後ろ盾があったからだ。
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