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「姉様、今度はイギリスに行きたい。」
正月前の忙しい時期にクロウは姉であるフユウにそう放った。フユウは楽しそうに掃除しながら、
「そう・・・・行ってらっしゃい。お土産とか気にしなくてもいいからね?」
と答えた。
「?姉様も行くんだよ?」
フユウの手が止まる。信じられないという目でクロウを見つめた。クロウの方はきょとんとして2つ並んだキャリアケースを指差した。
「姉様の分のキャリアケース。私とお揃いで買ってもらったの。」
「誰に?ねぇ、いつ買ってもらったの?ねぇねぇ・・・・・。」
フユウのねぇねぇ攻撃にクロウは動じずに微笑む。
「1人しかいないでしょ?ご主人だよ。」
キャリアケースをゴロゴロとフユウの前まで持って来て、クロウは楽しげにクルクルと回った。
「どうしてフユウに何も言わなかったの?フユウもご主人様とお出かけしたかったのに!」
フユウは少し声を荒げる。ダンッと床を踏むとクロウに詰め寄った。回り続けていたクロウは近寄るフユウに掴まれよろけた。それによって2人は転んでしまう。フユウを下にしてクロウが上に乗っかった状態になった。いたた、と上半身を起こすフユウの目の前でクロウはにこりと笑っていた。
「楽しいね、姉様。」
困った妹とでも言いたげにフユウはクロウを睨み付ける。年末にはご主人様とゆったり過ごしたいのに、クロウが来てからはすっかり3人でいるのが定着してしまっているのだ。自分達が人間が育成する妖精だということは自覚している。1人の人間が複数人の妖精を育てることがあることも。それでもフユウの性格上、どうしてもクロウを受け入れられずにいた。育てている内に妖精にはそれぞれ性格が芽生える。クロウより先に育成されていたフユウは既に性格が芽生えていた。育ててくれる人間への強い愛情と独占欲、所謂ヤンデレだった。一方クロウはまだ完全に性格が芽生えたわけではなく、少し妖精としての明るさが残っている。 そのため、嫉妬心むき出しのフユウに対しても笑顔で接することができるようだ。
「クロウはまだまだお子様だから・・・人を愛するってことがわからないの。そのうちわかるようになるかな?でも、ご主人様はフユウのものだから、諦めて、ね?」
とフユウはよく言って聞かせている。
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