1人目

9/48
前へ
/137ページ
次へ
「あのさぁ、霊子に聞きたい事があるんだけど。」 霊子には何となく聞いて来る内容は、分かっていた。 記憶喪失の人は、覚えてる内容が僅かしかない。 それでも聞く内容は、1つしかない。 里奈の気遣いに対して、自分は気にしてないと言う意を込めて明るく答えた。 「何?何でも聞いて、殆ど何も覚えてないけど。」 心配な友達を助けになれたらと思い、少しでも霊子の情報を欲してたための行動だった。 「霊子が、覚えてる事ってないの?」 「私が覚えてる事は、1つは名前、もう一つはピートントンピートントンと頭に聞こえてくる音だけなんです。」 「その音に、思い当たる事はないの?」 「今のところないんだけど、この音が聞こえる度に胸が苦しくなるんです。 だから、あまり良い事ではないと思います。」 瑠璃達は何て言えばいいかわからなかったけれど、里奈だけは、めげずに質問をした。 「前の学校を見て回った時は、どうだったの?」 里奈の方に振り向き、綺麗な髪が揺らめいていた。 「特に何も思い出す事はなかったけど、ただ私は学校で浮いていたみたいです。 特に友達もなく、1人でよく窓を見ていたらしいです。」 この時の霊子は、絶望のいう名の悲しみを募らせた笑顔があったけれど、この時、里奈には霊子の本当の悲しみの意味がわかっていた。 口には出さなかったけど、霊子の記憶より何故、記憶喪失になったかわからないままだからだ。 誰かが霊子に、記憶を失う程の事をしたかも知れない。 ただ単に事故による記憶喪失なら、心が苦しむ事はないはず。 何より霊子自身を含め、その人の情報が一切ないこと。 京子が自分の意思と周りの考えが、同じか確認するように皆を見ながら切り出した。 「悲しい話は、止めよう。」 波も、勢いに乗りながら言った。 「そうだね。 霊子の助けになれるかわからないけど、私達が助ければいいしね。」 そんな中、どうしても心配な気持ちが取れず、不安が押し寄せて来た。 瑠璃は2人の視線が霊子に行った時に、横にいた里奈に敢えて霊子を見たまま、ぼそっと声をかけた。 「ねぇ、後で話があるんだけど!」 「私も瑠璃に、言っておきたい事がある。」と綴った。 そんな会話に気づかずに、京子は満面の笑みで右手を上にかざしながら、勢いよくまるで小学生が楽しみにしていた遠足に、出発前にする行動のようだった。 「じゃあ、続きを案内しよう。」
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

312人が本棚に入れています
本棚に追加