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「あのさぁ、霊子に聞きたい事があるんだけど。」
霊子には何となく聞いて来る内容は、分かっていた。
記憶喪失の人は、覚えてる内容が僅かしかない。
それでも聞く内容は、1つしかない。
里奈の気遣いに対して、自分は気にしてないと言う意を込めて明るく答えた。
「何?何でも聞いて、殆ど何も覚えてないけど。」
心配な友達を助けになれたらと思い、少しでも霊子の情報を欲してたための行動だった。
「霊子が、覚えてる事ってないの?」
「私が覚えてる事は、1つは名前、もう一つはピートントンピートントンと頭に聞こえてくる音だけなんです。」
「その音に、思い当たる事はないの?」
「今のところないんだけど、この音が聞こえる度に胸が苦しくなるんです。
だから、あまり良い事ではないと思います。」
瑠璃達は何て言えばいいかわからなかったけれど、里奈だけは、めげずに質問をした。
「前の学校を見て回った時は、どうだったの?」
里奈の方に振り向き、綺麗な髪が揺らめいていた。
「特に何も思い出す事はなかったけど、ただ私は学校で浮いていたみたいです。
特に友達もなく、1人でよく窓を見ていたらしいです。」
この時の霊子は、絶望のいう名の悲しみを募らせた笑顔があったけれど、この時、里奈には霊子の本当の悲しみの意味がわかっていた。
口には出さなかったけど、霊子の記憶より何故、記憶喪失になったかわからないままだからだ。
誰かが霊子に、記憶を失う程の事をしたかも知れない。
ただ単に事故による記憶喪失なら、心が苦しむ事はないはず。
何より霊子自身を含め、その人の情報が一切ないこと。
京子が自分の意思と周りの考えが、同じか確認するように皆を見ながら切り出した。
「悲しい話は、止めよう。」
波も、勢いに乗りながら言った。
「そうだね。
霊子の助けになれるかわからないけど、私達が助ければいいしね。」
そんな中、どうしても心配な気持ちが取れず、不安が押し寄せて来た。
瑠璃は2人の視線が霊子に行った時に、横にいた里奈に敢えて霊子を見たまま、ぼそっと声をかけた。
「ねぇ、後で話があるんだけど!」
「私も瑠璃に、言っておきたい事がある。」と綴った。
そんな会話に気づかずに、京子は満面の笑みで右手を上にかざしながら、勢いよくまるで小学生が楽しみにしていた遠足に、出発前にする行動のようだった。
「じゃあ、続きを案内しよう。」
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