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目を瞑り眉を寄せ、苦悩の表情の霊子は切り出す。
「実は、私記憶喪失なんです。」
その言葉に衝撃を受け、誰も暫く口を開く事は出来なかった。
それでも霊子は、構わず話を続けた。
「そのせいかもしれないんですけど、自殺した少女の話がまるで自分の事のように、悲しく苦しいんです。」
目から大きな粒が、ゆっくりと頬をつたり地面に落ちた。
その姿を見た里奈は、悲しみに暮れた友達を、救いたい気持ちに溢れ、霊子に駆け寄り背中を何度も何度も摩り、まるで泣いた妹を、慰める姉のような温かな姿がそこにはあった。
瑠璃達は霊子に励ます気持ちでいたが、1番最初に出来た友達の里奈が良いと思い、敢えて何も言わなかった。
そんなしんみりした空気の中、波は言った。
「ここで自殺した少女の名前、確か霊子って名前で漢字も一緒だったはず、だからかもね。
自分の事のように感じてしまうのは。」
すると強い口調で「波!」と瑠璃は、言った。
霊子を励ます気持ちで言った事が、かえって傷つけてしまった。
おどおどと身を震わせながら「ごめんね霊子、そんなつもりじゃなかったんだ。」
このやりとりの中、形はどうであれ、それぞれの優しさに嬉しいさと悲しみの感情が、入り混じっていた。
「うん。わかってますよ!ありがとう。」
その言葉に場が落ち着いた。
1人何も喋れなくなっていた京子は、次は自分が霊子の為にと言わんばかりに、道案内を再開した。
虚空のよう廊下を、まるで闇に飲まれていくかのように進んだ。
次の教室に着くと、上の看板には理科室と書かれている。
「ここが理科室だよ。」
古びた扉を開け、理科室に入るとギシギシと音を立ててまるで、ホラー映画のワンシーンのような光景だった。
教室自体は霊子達の教室と大きさは、殆ど変わらない。
違う所と言えば、横に長かった教室に対し縦に長く、理科室の中にもう一つ扉がある事ぐらいだ。
理科室の中は左程綺麗にされておらず、所々埃が被っている。
大きなテーブルが6つあり、テーブルの下に置かれた4本の棒に、円盤型の板がくっついた椅子が1つのテーブルに8人分置けるようになっているが、人数分置かれているテーブルは、1つしかない。
正面に薄暗い緑色の黒板の、そのすぐ横には、何か書かれているホワイトボードが放置されていた。
「理科室は、どこの学校も変わらないんだね」
すぐ横にいた京子が、聞いた。
「そういえば、霊子は何処の学校から来たの?」
転校生に、ありがちな質問だった。
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