だれか、かわって。

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『このビルの四階でさ。…出る、らしいよぉ?』 ――あーあーあー!私は何も聞いてません!聞いてませんったら!!  小さな会社なら特に有りがちなことだが――まるで学校のように、この会社には日直のローテーションがある。ビルまるごとこの会社のモノなので、二階のオフィス以外も応接室やら会議室やら倉庫やらで使っており、当然鍵閉めチェックが必要だからだ。窓やドアの鍵を見て、ポットのコンセントを抜き、残っている人がいなければエアコンなどが切れているのをチェックする。ただそれだけの仕事――なのだが。いかんせん、今回はタイミングが悪すぎた。  間違いなく、山本は分かっていて言ったのだ。私が日直の当番で――一人で四階の倉庫を見回らなければならないということを。 ――怖くない!怖くないってば!自殺者がいたなんて私は知らないんだから!!  三階まではいい。応接室や会議室としてそれなりの頻度で使われているのだから。問題は四階だ。二つある部屋のうち、片方は資料室でたまーに使う。もう片方が問題。倉庫というプレートがかかっているものの――私は入社して一度もそこに入ったことはないし、誰かが入るところも見たことがないのである。  ただでさえしっかりした扉に、何故か頑丈に南京錠がかけられていたことだけは覚えていた。どうしてだろう、何か大切なものでもしまってあるのかな――今まではただ、それだけの感想だったというのに。 『四階の倉庫は、私達の前に別の会社の倉庫だったらしいんだけどね…』  忘れたいのに。  聞かなかったことにしたいのに。 『そこの鍵が壊れて。社員の女の子が誤って閉じ込められてね。当時は携帯電話とかもなかったら…彼女は誰にも助けを呼べなくて、餓死することになって。死体が見つかったのは死んでから何ヶ月も過ぎてたせいで…開けた時にはもうすごい状態で、まるで溶けたみたいになってたんだってさ…』  無心で足を動かす。四階の資料室と倉庫の鍵がきちんとしまっているのを確認する。それだけが自分の仕事。それだけを考えればいいはずだ。――それなのに。 『開かない扉に、すがり付くみたいにして…死体が貼り付いてたんだって。まるで…開けて、開けてって扉を叩きながら死んでいったみたいにさ……』
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