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どんっ。
「ひぃっ!!」
私は思わず間抜けた声を上げて、尻餅をついた。音。今、確かに――音が。
どんっ。
「ひいいいいっ!や、やめてっ…だ、誰かいるのっ!?」
明らかに扉の向こうから、扉を叩くような音がした。思わず叫んだが、返事はない。どうしよう、と私は泣きそうになる。出来ることならこのまま何も問題なかったことにして逃げ帰ってしまいたい。鍵は閉まっていました、何も見ていません大丈夫です――と今すぐ此処から脱出したい。
だが、仕事は仕事だ。先日うっかり日直を忘れて帰ってしまい、大目玉を食らったばかりの私である。いくら怖かったからといってここでまた仕事を放棄したことがバレたら、一体何を言われるやら。
そう、何が困るって――この扉の向こうには、生きた人間がいる可能性も充分あるのである。それこそ、私を怖がらせようと山本あたりがこっそり中で待機していてもおかしくはないのだ。私が扉の前に来たことなど、足音が聞こえれば簡単に察知できるのだから。
――嫌だ…嫌だけど、確かめないと…っ。
私は涙目で、それでもどうにか立ち上がりノブに再び触れていた。ゆっくりと回してみる。――開きませんように、という私の願い虚しく。重苦しい扉は、がちゃりという音とともに開いてしまったのだった。
「ううう…」
こうなってくると、中に誰かがいる可能性は否定できない。さっきの物音はただ中で荷崩れをしただけなのかもしれないが――そうだと信じたいが――中に誰かがいて仕事をしていたり脅かし待機していたりするのなら、鍵をかけてしまうわけにはいかないからだ。
最悪だ。今日はなんて最悪の日なのだろう。
私は煩すぎる心臓を宥めすかしながら、中を覗きこんだ。――乱雑に段ボールが積まれるばかりの、埃臭い室内。カーテンが閉めきられているせいで廊下よりもずっと暗く、とてもじゃないが入り口から中を確認することなどできそうにない。
電気をつけなければ、と思って壁際を探り、スイッチをつけようとするが――いくらカチカチと押してもスイッチが入る様子は、ない。
どうやら本当に――中に入る以外術がないようだ。
――すぐ!すぐ見て…ざっとだけ見て帰る!悪いけどそれ以上探すのとかむり…怒られてもいいから、部長に鍵渡して帰ろうっ…!
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