男たちは必ず二度家を出る

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 村に愚かな男がいた。男には若い妻がいて、六歳の男の子の父親でもあった。彼も村の他の男たちと同じように、漁が終わると隣町で酒を飲みばくちを打つのだった。ある日、いつものように、男は隣町に出かけた。しかし、夕方になって、他の男たちが帰ってきても、その愚かな男だけは戻らなかった。妻と子供は、男の帰りを待った。男が帰らないまま、三日が過ぎた。他の漁師たちの噂で、男は珍しくばくちでもうけ、酒場の女に熱を上げた。有り金をはたいて、女に言われるままに宝石を買い、そのまま町に居着いているという。妻は修道院に毎日通い、神に祈った。  それから数日後、男が戻って来た。文無しだった。妻は何も問いたださず、男も何も言わなかった。子供だけは、男の帰りを喜んだ。  次の朝、男が漁に出かけ、子供がまだ寝ている時間に、女は家を抜け、修道院に向かった。厚い樫の板でできたドアをノックすると、一番年老いたシスターが彼女を招き入れた。シスターは何も言わず、陶器の小さな瓶を女に手渡した。女は少し表情をこわばらせ、黙ってうなずくと修道院を後にした。朝の風がローズマリーの香りを運ぶ小道を女は家へと急いだ。  家に着くと、まだ愚かな夫は漁からは戻らず、子供もすやすやと眠っていた。女は朝食の準備をした。子供が起きて来たので、母と子は朝食をとった。子供は学校に行き、女は夫のスープに、修道院から持ち帰った小瓶の中身をすべて注いだ。それは、ケシやベラドンナ、トリカブトなどで調合された猛毒だった。  夕方になり、男の子が学校から帰って来た。女が夕食の準備をしていたが、父の姿はなかった。 「ママ?パパはいないの?」 女は答えた。 「パパはまた出て行っちゃったよ」 子供は父親を求め、家中を探したが、見つけることはできなかった。     
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