壱、人の記憶は叫厄となりて

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怒りに震えているものの、彼女は神様に献上する予定の千円札を右手に握りしめ、茶色の木々の中に構える口紅色(くちべにいろ)鳥居(とりい)をくぐる。 フンガフンガと石段を登り、拝殿(はいでん)の前へずずいっと進んだ。 「神様! どういうことでしょうか。昨日、仕事を失いました。幼い頃には両親を事故で亡くし、四千グラムで生まれたはずが今はご覧のとおりの貧乳です。いい加減、私を不幸にして遊ぶのはおやめになって、何か別の楽しみを見つけて下さい」 パン、パン。お手本のような二礼二拍手をしてみせて、神様の顔色を伺いながら、四つ折りの千円札を賽銭箱(さいせんばこ)へと押し込んだ。
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