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結局、僕は、友里と会って話をすることにした。
午後の3時に、昔よく行った広尾のカフェで、30分制限で、嫌になったら直ぐ帰ってもいいという条件も引き出した。こちらがいろいろ要望を出しても、全部応諾してくれたので、よほど重大な話があるのだろうと思った。
挨拶もそこそこに友里は、本題をからズバリ切り出した。
「別れる時に言えばよかったんだけど。言えなくて。」と。
「うん。」と僕。
「あなた、恋愛する相手に自分の理想像を重ねるところがあるでしょ。」
うーん、これは、認めざるを得ない部分も確かにある。
「もっと、冷静に相手のことを見た方がいいと思うわ。」
「うん。」
「いろんなタイプの女性がいるだろうけど、あたしにはかなり重荷だったな。」
「えっ、そうだったの?」
「初めはね。あなたが望むような、素敵な女性にならないと、と思ったわ。」
「そう。」
「でもね。だんだんあなたに気に入られるよう演技をするような感じになって。」
「えっ。」
「知らなかったでしょ。そのこと。」
「全然、知らなかった。」
「けっきょく、あたしはあたしでしかないわけで、あなたの夢のような恋愛関係についていけなくなるのよ。」
「うん。」
「あなたは、こうして欲しいとか、こうなってくれだとか言わない。でも、よく、君のこういうところが好きだとか、リスペクトするとか、言うよね。」
「ああ、言うかも。」
「でも、私は、そんなんじゃないのよ。本当は。」
「ああ。」
「あなたといると、理想と現実の間に落っこちて、身動きできなくなるような息苦しさに苦しむの。」
友里は、そこまで捲し立てると、フーっと息を吐いて、何かを成し遂げた後のような爽やかな表情を見せた。
反対に僕は、自分の思いもしなかった欠点をズバリと指摘されて、鉄柱に頭をぶつけるくらいの衝撃を心に受けていた。キューんと胸が痛んで、うまくものが言えない。
そうするうち、友里は、一方的に話を切って、笑顔で帰り支度を始めた。
「あなたに好きな人ができたと聞いて、この話、伝えないと、と思ったの。」
「うん。」
「だって、その女性があたしみたいになると可哀そうだから。」
僕は、声を絞り出して、なんとか、「わかった。」とだけ答えて、俯いた。
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