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エピローグ
何もしないわけにはいかなかった。僕とさえりさんのストーリーは、どうしても進めなければならない。「今更、何をするのか?」と、心の底からふつふつと疑問が沸き出て来るのを躍起になって抑え込もうとしていた。
そして、勇気を出して、彼女の真ん前に進み出て、目を見つめ、はっきりとした大きな声で言った。
「さえりさん!僕は、さえりさんとお話がしたい。」
「煩いわねぇ。」と妹のさゆりさんが言った。
「ちょっと黙っててくれ。僕は、さえりさんと話がしたいんだ。」
彼女の表情がさっと変わり、妹の方が、ハハハハハと大きく口を開けて笑いだした。
「どうして私じゃ駄目なの? どうしていつもお姉ちゃんの方なの?」
「黙れ!僕は、さえりさんの方と話がしたいんだ。」
彼女は、一度目を瞑り、表情を無くした。ピアノの鍵盤の上に顔を伏せ、ポロローンと音が鳴った。
まるでそれが合図の鐘の音か何かだったように、彼女は、むっくり起き上がり、目を大きく開けて僕の方を向いた。
「さえりさん!」と僕が小さく叫ぶと、彼女は、言った。
「あっ、庄司さん!」
「あっ、気付いたの?」
「見つけてくれたんだ!ありがとう。私たち久しぶりに会えたのね。」
にっこり笑う彼女は、あの秋の日に長々と一緒に歩いた時と同じだった。
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