2.秋は深まるのに

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 何日かして共通の友人を通じて友里から連絡があった。僕と会って話がしたいという。  最初は、断ろうと真剣に思った。  3年も前のことだからもう平気だと思っていたが、この間ホールで見かけた途端、あの、別れた当時の、重苦しい想いが蘇ってきたから。いや、別れた当時ではない、友里に男の影を感じた頃の気持ちの方が、もっとモヤモヤして、いつまでも晴れ間の出ない梅雨空のような、陰鬱だったと思う。  「好きな男性(ひと)ができたの。」と打ち明けられた時も、ショックはショックだったが、そのずっと前から予感はあったので、ある程度心の抵抗力はあったと思う。それよりも、何となく避けられているような雰囲気が続いて、セックスどころかボディタッチすら無い状況の方が辛かった。初めは、一時的な倦怠感なのかと思っていた。でも、3か月目くらいから、おかしいと思い始めた。  或る日のこと、彼女の大好きなミュージシャンで半年以上前にペアでチケット予約していたライブに、ラストになるまで彼女は現れず、アンコールを一人で聞いた時、僕は、たぶん喪失感の絶頂にいた。    僕を捨てて他の男にところへ行った女に、今更なんで会って話をしなければならないのか、全然意味がわからなかった。お互い、どちらからともなく、フェードアウトしていった恋愛ではないのだ。僕は、ずっと彼女のことを思っていたのに、それを彼女が断ち切ったのだ。想いを抱いたまま、別れを強いられる辛さを彼女は知っているのか?自分の全てを否定されたような、絶望的な気持ちで、一人孤独に沈んでいったあの時期。もう二度ともとには戻れないし、戻る気もない。  ところが、あんなにあっさり僕のもとを去っていった彼女が、今度はしつこく会って話をしたいと言ってきた。    何を話すというのか? どんなメッセージがあるのか?  謝りたいのか? まさかそんなはずはない。  よりを戻したいのか? それも有り得ない。  謎は、深まるばかりだった。  
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