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そんな僕の気持ちなどいざ知らず彼女は純白のドレスを着て見たこともないほどの笑顔をしていた。左手の薬指には彼女の美しさにふさわしい指輪が輝いている。
どうしてあそこで隣に立っているのは僕じゃないんだろう。あの笑顔を隣で見られないんだろう。悲しさなのか悔しさなのかわからない感情で頭が埋め尽くされる。
いや、取り返しがつかないようなことをしかけたにも関わらずこの場に居させてもらえているだけで喜ぶべきなのかもしれない。元々叶わぬ恋なことは分かっていたはずなのだから。
この光景が見られているだけで喜ぶべきなのだろう。
そう思い込もうとしてもこの光景を直視できないのだけれども。
知らず涙を流しそうになってしまうから。
「おめでとー!お幸せにね!」
「綺麗だよ!」
祝福の声が上がる。彼女はそれに照れくさそうに手で返事を返す。
どれだけ悔しくても悲しくてもここは祝いの場だ。
自分のエゴを出す場じゃない。泣くのは1人になってからだ。
「おめでと、姉貴。ほんとに」
そう絞り出す。自分でも驚くくらいに小さな声だ。
それでも姉には届いてくれたらしい。
こちらを一瞥してしっかりと目を見て
「ありがと、孝則も早く結婚しなね」
なんていたずらに笑った。さっきまでの4割くらいの笑顔で。
姉貴としか一緒にいたい相手なんていないよばーか。
心の中だけで言う。
4割の笑顔でも僕には十分すぎるくらい嬉しいものだからそれを崩したくなくて。
困らせたくなくて。
僕は自分を押し殺す。大好きな姉のために。
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