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「っ……!?」
意識を引き戻された私は、微かに痛む蟀谷を押さえながら、しばらく自室の白い天井を見つめていた。
掠れた声で呼んでいたのは、知らない人の名前。その音はまるで水面を弾いたように、広がってはやがて消えていく。
__今のは何?
バクバクと大きく波打つ心臓の音を聞きながらゆっくりと上半身を起こすと、赤と白のチェックのカーテンの隙間からは朝の光りが差し込んでいる。
まるでまだ夢と現実の狭間にいるように、呆然としていると部屋のドアが小さく開く音がした。
「おはよう。ミツハ」
白髪混じりの髪の毛を一つに縛り、白いエプロンを掛けた母はドアの隙間からこちらを覗くと首を傾げる。
「どうしたの? ボーッとして」
「あ、ううん。何でもない。おはよう、お母さん」
「朝ごはん出来てるけど、食べるわよね?」
「……うん。あ、ありがとう!」
一瞬、言葉を詰まらせてしまったことに慌てて、母の顔色を窺う。
しかし、そんなことは気にしていない様子で「早く降りて来なさい」と、微笑むと母は一階へと降りて行った。
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