一・始まり《中島ミツハ》

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 本当は、胃の辺りがムカムカしていて食欲がない。それを理由に、朝食を断っても怒るような性格でもないのに、母に気を遣っていしまうのがいつからか癖になってしまっている。 「……ふぅ」  自分に溜め息を吐きながら布団の中から出ると、朝の冷えきった空気に身震いをする。  早く一階のストーブで暖まりたいと、いそいそと立ち上がった瞬間、身体に違和感を感じた。  昨日は早く休んだはずなのに、何故か身体が重い。風邪かと思い額に手を当ててみたものの、熱はないようだ。  不思議に思いながらも、高校の制服に着替えていると、ブラウスのボタンを閉める自分の指先に視線が止まる。  数ミリ伸びた爪の白い部分に、何か赤黒い汚れが挟まっていたのだ。  しかしそんなはずがない。 昨日、寝る前には何もついていなかったのだから……。  暫く掌を見つめていた私は、前にも同じようなことがあったと、思い出す。寝る前に枕元に置いてあったスマホが、朝起きると机の上に置い移動していた。  もしかして……。と、脳裏にはある考えが浮かぶ。だけどそれならば、お母さんに聞けばわかることだと、私はすぐに着替えを済ませると慌てて一階に降りて行った。
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