一・始まり《中島ミツハ》

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「お母さん! 私っ……」  リビングを開けた瞬間、もわんとした温かな空気が流れ込む。  朝食の匂いと何処からともなくやってくる臭いが混ざり合い、収まっていたはずのムカつきが胃から胸へと移動する。 「どうしたの?」  母がダイニングテーブルに並べたお皿をには、シーザーサラダとバジルソーセージと農園から直送される卵で作った目玉焼きが盛り付けられていた。 「……ソーセージって、手作り?」 「あら、良くわかったじゃない」 「……良い臭いがしたから」 「あら、そう? それより、どうかしたの?」 「え? あ……、あのさ。私って夜中、眠ったまま家の中をウロウロしてたりしない?」  すると、母は数回目をパチクリさせると笑い出した。 「何言ってるのよ。ミツハは、昔から一度眠ると起きないタイプじゃない」 「……そうだけど。朝起きると、スマホが移動していたり、爪の中が汚れてたり」  私が両手の爪を見せても、笑っているだけでまともに取り合ってはくれない。
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