一・始まり《中島ミツハ》

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「そんなの気のせいよ。それより、早く洗面済ませちゃいなさい。遅刻するわよ?」  時計を見ると、まだまだ時間に余裕がある。しかしまた顔色を窺ってしまった私は、素直に洗面所へと向かった。  廊下を出て左の突き当たりには、扉を隔ててキッチンがある。きっと臭いはそこからやってくるのだろう。  顔をしかめながら手前にある洗面所で顔を洗うと、リビングに戻りダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。 「いただきます」と、手を合わせるとまずソーセージに手を伸ばす。  今朝の逸品はこれだ。  そんな私を一瞥してから、お母さんはサラダにフォークを伸ばした。  自家製のソーセージは口の中に入れると、パリッと割れた皮から肉汁が溢れだす。  独特な肉の臭みはあるけれど、ハーブと混ざり絶妙な味を醸し出している。 「……美味しい」 「今回はスネ肉を一緒に混ぜてみたんだけど」 「そう。足のスネ」  母は、ふふっと笑うとコーヒーカップに口をつける。
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