一・始まり《中島ミツハ》

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「そうなんだ。だから、歯応えがあるんだね。美味しいよ」 「良かった」  ふふふっと、笑いながら今度はトマトを頬張る姿から視線を落とす。すると、お皿の上にはサラダと目玉焼きだけが乗っている。 「あれ? お母さんのソーセージは?」 「私は作る時に味見しちゃったから」 「え、私のあげるよ?」 「いいのよ。ミツハに食べて欲しくて作ったんだから」 「……ありがとう」  料理好きで優しい母は、私の自慢。お父さんと離婚してから、女で一人で私を育ててくれた。  温かな家庭。  何不自由のない生活。  __私はとても幸せだ。 「どうしたの?にやにやして」 「ん? 幸せだなって…」  改めて言葉にすると気恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じる。母はそんな私を見ると、目尻に浮かんだ皺をより濃くして笑った。 「当たり前よ。ミツハの名前は幸せのクローバーから付けたんだもの」  __ミツハ。    幸せの象徴。  この時の私は、そう信じて疑わなかった。
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