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「そうなんだ。だから、歯応えがあるんだね。美味しいよ」
「良かった」
ふふふっと、笑いながら今度はトマトを頬張る姿から視線を落とす。すると、お皿の上にはサラダと目玉焼きだけが乗っている。
「あれ? お母さんのソーセージは?」
「私は作る時に味見しちゃったから」
「え、私のあげるよ?」
「いいのよ。ミツハに食べて欲しくて作ったんだから」
「……ありがとう」
料理好きで優しい母は、私の自慢。お父さんと離婚してから、女で一人で私を育ててくれた。
温かな家庭。
何不自由のない生活。
__私はとても幸せだ。
「どうしたの?にやにやして」
「ん? 幸せだなって…」
改めて言葉にすると気恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じる。母はそんな私を見ると、目尻に浮かんだ皺をより濃くして笑った。
「当たり前よ。ミツハの名前は幸せのクローバーから付けたんだもの」
__ミツハ。
幸せの象徴。
この時の私は、そう信じて疑わなかった。
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