一・始まり《中島ミツハ》

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 「行ってらっしゃい」  「行ってきます」  玄関の中で母に送り出されると、外にでてはまず深呼吸をする。  冷たい空気を肺に思いっきり取り込んだ瞬間、何かから解放されたような気持ちになった。  芝の上に等間隔に敷かれたアイボリーのタイルの上を歩くと、両脇には母が毎日欠かさず手入れしているパンジーの花が植えられていて、小さい頃は「花道」なんて大袈裟な名前をつけていた。  だけど、十七歳になった今でもこの風景が好き。  家から門までの距離はたったの数メートルだけれど、まるで内界と外界の間にある楽園のような存在。私にとっての憩いの場。 「……よし」  小さく気合いを入れると、胸の辺りまであるアーチ状の鉄製の門を開ける。  __また、新しい一日が始まる。  まだ疲れが残る身体で無理に軽快なステップを踏みながら、私は学校まで向かった。
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