一・始まり《中島ミツハ》

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「冬はマフラーいらずだしね」と、ふざけて長い髪を首に巻く私を見てユウコは声を出して笑う。  しかし急に真顔になると、グイッとソバカスのできた顔を近づけた。 「ミツハ、夜更かしした?」 「え?」 「目の下に隈できてるよ?」  人差し指で皮膚をトントンと優しく叩かれた瞬間、脳裏に今朝の出来事が甦った。 「……爪が汚れてて」 「え?」 「今朝起きたら、爪に身に覚えのない汚れがついてたの。その前はスマホの位置が変わっていて…。そういう時は、決まって寝てるのに疲れが取れていないんだよね…」 「何? それ」  唇を尖らせると、ユウコは首を傾げる。しかしすぐに何かを思い付いたのか「あ」と、小さく声を上げた。 「寝てる間に動いてるってやつだ! えっと……、夢遊病だっけ?」 「……うん。でもね、お母さんは気のせいなんじゃないかって。だから気にしないようにしようとは思ってるんだけど…」  掠れた声。  知らない人の名前。  身に覚えのない汚れ。    正直、気になってしょうがないけれど、母に頭の可笑しな子だと思われたくない。
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