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「……はぁ。……はぁ」
男は暗い夜道を走っていた。
何度、振り返っても近くに人の姿はない。しかし「あの」気配だけが、いつまでも消えることなく背後を付きまとっていた。
角を曲がりブロック塀に背を預けると、息を殺し気配が通り過ぎるのを静かに待つ。
__カサカサ。
冷たい夜風に揺れる葉音に混じり、あの気配が男のすぐ側を通りすぎていく。
真冬だというのに、全身から噴き出した汗は蟀谷を伝いポトリと地面に落ちた。その音すら「あいつ」に聞こえてしまうのではないかと、恐怖に震えていると足元で何かが動く気配がした。
「……っ」
小さな悲鳴を上げそうになった男は、既の所で留まる。足元を見つめると、街灯に照らされた自分の影が不気味に揺れていた。
「……何だよ」
小さく舌打ちをしながら、厚手のダウンジャケットからスマホを取り出す。そして電話張を開き画面をスクロールさせる指が「ハ」行でピタリと止まった。
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