一・始まり《中島ミツハ》

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「よし! 今日は、カラオケでも行くか!」 「いいねー! 行こ行こ!」  楽しそうに笑う生徒達が、真っ赤な夕日に目を細めながら、私の足元に伸びる黒い影を踏んずけて行く。ぼんやりとその光景を眺めていたら、自分の存在意義が揺ぎそうでパッと顔を上げる。  その瞬間、向こう側から歩いて来た男性と目が合った。  見開かれる切れ長の瞳。形の良い唇が小さく動く。  __カ ズ ミ。  咄嗟に目を反らした私は、駅までの道のりを全力で走る。  きっと気のせい。妄想。幻覚。私は、相当疲れているんだ。  バクバクと速くなる鼓動を押さえるように、左の胸のシャツを掴むと電車へと飛び乗った。  しばらく、電車の椅子に浅く腰掛けて頭を抱えていた。すると徐々に気分は落ち付き、悶々としていた思考からやがて答えを見つけた。  __全てを関連付けてはいけない。  だって「カズミ」と、いう名前なんて珍しくもない。何処にでもいくらでもいる。たまたまその名前が聞こえただけで、尚且つそのタイミングであの男性に出会ってしまっただけのこと。
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