一・始まり《中島ミツハ》

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 考えてみたら私の通う学校にも、同じ名前の子なんていくらでもいるし、一々ナーバスに反応をしてしまう私の方に問題がある。 「お嬢ちゃん、具合いでも悪いのかい?」  先程から隣に腰掛けていた老婆が声を掛けてくれる。姿を見てはいないけれど、年齢を重ねたしゃがれた声をしていた。 「大丈夫です」 「なら良いけれど…」  ふんわりと優しいお香の匂いと共に、立ち上がる気配がした。 「悪い相が出ているから気をつけなさいな」  え?と、顔を上げた時には既に老婆は扉の前に立っていた。  いくつもの皺が浮かぶ横顔からは、八十代ということが窺える。しかし背中はスッと真っ直ぐ伸びていて、淡い紫色の着物と、足元には白い足袋と銀色の草履という出で立ちから、占い師かその類いの人間にも見える。  残念ながら私は占いを信じない。  なのに、またしてもこのタイミングで「悪い相」だなんて言われたら、先程出したばかりの答えが揺らぎそうになってしまった。
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