一・始まり《中島ミツハ》

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 カズミと呼ぶ声。カズミという名前を呟いた男性。先程の老婆。悪い相。夢遊病。    バラバラのピースを一つに繋げる方が難しい。しかし全て、起こるべきして起こったような、出会うべきして出会ったような。  そんな不思議な感覚だけは拭い去れなかった。 「ただいま……」  広い玄関から力なく声を上げても返事はない。  きっと母は突き当たりのキッチンにいるのだろう。  私は左手にある部屋を見ないようにしながら、廊下を進むと洗面所で手を洗う。キッチンからは相変わらず異臭がした。  恐らく、今日の夕飯も駅前の精肉店から手に入れた、新鮮な肉。  母の邪魔にならないように、声を掛けずに廊下を戻りリビングに入ると、端に置かれた飲み物専用の冷蔵庫を開けた。  私の胸程の高さの冷蔵庫から、二リットルペットボトルに入ったミルクティーを取り出すと、食器棚にあったコップに注ぐ。そしてそのまま二階にある自室に持ち込むと、夕食までしばらく部屋に籠ることにした。
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