十・深怨 《中島ミツハ》

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「うっ!?」  小さく響く呻き声。同時にカタンッと、音を立てながら床にナイフが落ちた。自分の腹が濡れていることに気付き、両手で触るとジワジワと深紅が広がっていた。 「……ミツハ?」  驚いた顔をしながら、私を見つめている。 「……お母さんの嘘つき」  母は本当に嘘つきだ。私と一緒に生きていくつもりなんて、微塵もなかったくせに……。  どうせ復讐の道具は、その目的を果たしたら不要になることぐらいわかっている。だけど証拠隠滅を図るために、ナイフで殺そうとするなんてあんまりだ。 「……どう……して……?」  すると苦しそうに呻きながら、腹にハサミが刺さったまま母は膝から崩れ落ちていった。 「どうして? そんなの決まってるじゃない。……どうせ、愛してもらえないからだよ」  母に愛してもらえるのならば、何でもする。そう思っていたけれど、気づいてしまった。  __どんなことをしても、私は愛してもらえない。 「……それならね、この手で殺せばいいって思ったの」  初恋も母親の愛情も、どんなに努力しようと私のものにはならない。
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