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「うっ!?」
小さく響く呻き声。同時にカタンッと、音を立てながら床にナイフが落ちた。自分の腹が濡れていることに気付き、両手で触るとジワジワと深紅が広がっていた。
「……ミツハ?」
驚いた顔をしながら、私を見つめている。
「……お母さんの嘘つき」
母は本当に嘘つきだ。私と一緒に生きていくつもりなんて、微塵もなかったくせに……。
どうせ復讐の道具は、その目的を果たしたら不要になることぐらいわかっている。だけど証拠隠滅を図るために、ナイフで殺そうとするなんてあんまりだ。
「……どう……して……?」
すると苦しそうに呻きながら、腹にハサミが刺さったまま母は膝から崩れ落ちていった。
「どうして? そんなの決まってるじゃない。……どうせ、愛してもらえないからだよ」
母に愛してもらえるのならば、何でもする。そう思っていたけれど、気づいてしまった。
__どんなことをしても、私は愛してもらえない。
「……それならね、この手で殺せばいいって思ったの」
初恋も母親の愛情も、どんなに努力しようと私のものにはならない。
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