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目の前にいるキミは、涼しげな切れ長の瞳を見開いたかと思ったら、不自然に僕から視線を反らす。そして、長い黒髪を扇のように翻すと慌てた様子で走り去って行く。
グレーのピーコートに赤のマフラー。足元の紺色のハイソックスには、隣接している私立女子高校のロゴが入っていた。
何故?どうして?頭が軽いパニックを起こす。
__他人の空似。
それしか考えられないけれど、それにしては似すぎていた。いや、むしろキミその者だった。
世の中に似ている人間は三人いるとは言われているけれど、ここまで似ているものなのだろうか。
そして、何故僕を避けた?
小さく溜め息を吐くと、白い息がもやもやと上昇し、夕焼けで赤く染まった空へと消えていく。
その光景に、あの日の胸を刺すような寒さと苦しみが甦る。
……そうか、今頃か。
僕は、彼女が走り去って行った方向をぼんやりと見つめていた。
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