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目を閉じると意識は簡単に微睡んでいく。しかし瞼の裏で、野に咲く花を積み上げては笑うキミの姿が消えない。
今なら、その花の名前だってわかる。キミが好きだったあの鳥の名前も性質も、図鑑なんか見なくとも答えられる。
生物教師を志したきっけが、キミに知識をひけらかしたいからだなんて、本人が聞いたらどう思うだろうか。きっと笑うに違いない。
生き物が好きなキミ。
正義感が強いキミ。
あの頃の僕は、その背中を追いかけるのに必死で、キミ自身が抱えていた悩みにも気づかずにいた。
……ごめん。
キミのような生徒を救いたい。
そんな風に思っているのは、ただの自己満足だ。
罪滅ぼしになんかならないことをわかりながらも、僕は教師として生きている。
頬に涙が伝う。拭うこともせずに、ただじっと堪えていたら、瞼の裏のキミは闇に包まれて消えていった。
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